成功事例インタビュー

2019年9月13日

資金調達の切り札だった クラウドファンディング参加。 故郷を救うため、命と真剣に向き合う。

宮城県沿岸北部にせり出す「牡鹿半島」は以前から野生の鹿が多く生息する地域で、人間と鹿が共存し、コバルトブルーの海と森林が織りなす豊かな自然を誇っていた。しかし近年、鹿の繁殖急増に伴う自然荒廃と人里での被害が拡大し、内陸まで及んでいる。半島の小さな漁村蛤浜(はまぐりはま)に住む亀山貴一さんは厳しい現状を周知し、打開策を構築するための資金調達をクラウドファンディング(以下、CF)に求めた。

自然と共存する故郷に 美しい緑とにぎわいを再び。

東日本大震災の津波で蛤浜は壊滅的な被害を受け、震災前9世帯あった集落は3世帯となった。「蛤浜に残っていた人のためにも、自分に何かできないか」とひとりで立ち上げた「蛤浜再生プロジェクト」。カヌー、SUP(スタンドアップパドルサーフィン)を通じた自然体験や林業・狩猟の6次化などの事業を展開し、3世帯7人の集落に年間1万5千人の交流人口を呼び込んでいる。
その拠点となる「cafeはまぐり堂」では、地場の野菜、自ら獲った魚など、地域の素材をふんだんに使ったメニューを提供する。地元産のジビエを探していた亀山さんは、石巻市内で鹿肉を販売する
猟友会会長と出会った。
会長と会話を重ねる中、急増する鹿の被害の大きさと猟師の高齢化問題を知った。そこで、亀山さんと仲間は、狩猟免許を取得し、鹿の駆除に参加。その際年間1000頭ほど捕獲される鹿のほとんどが利用されず土中に埋められるという現実を目の当たりにした。
鹿解体処理施設の不足と鹿肉の流通がシステム化されていないことを知った亀山さんは、解体処
理施設「はまぐりジビエ」の建設に動き出す。「人間が鹿と共存するために、ある程度の駆除は必要
でした。それだからこそ、その命を最後まで活かしたかったのです」。
建設にかかる費用は、600~700万円。亀山さんは、助成金を活用して費用を捻出しようと行動に出た。八方手を尽くすが、農業でも林業でもない鹿の解体処理に対して、施設建設に活用できる公的な助成金はなかなか見つからなかった。そして、いつしか3~4年の月日が経過した。
ようやく2018年、地球環境基金から180万円、JCBから150万の助成を受けたが、必要な建設費用には程遠かった。

CFで故郷再生への想いを発信。

「CFへの参加は、資金調達のための最後の一手でした」と亀山さん。金融機関からの融資も考えたが、事業展開の不確実さを思えば、借金返済にかかる負担が大きいと判断したという。かつてCFに挑戦した経験があったことも後押しとなった。その時は、目標金額達成には至らなかったが、過去の経験を今回に活かすべく準備を進めた。
CFを成功させるためには、いかに多くの支援者の共感を集められるかにかかっている。そのカギを握るのが、支援者に向けたストーリー性のあるメッセージの発信だ。
狩猟で捕獲した鹿を解体して食肉にすることに対して、果たして共感してもらえるのだろうか――。そんな不安を抱きながら、亀山さんは、蛤浜が直面する現状や鹿と共存するための駆除の必要性、そして愛する故郷再生への想いをメッセージに込めた。
ファーストゴールの設定金額は、200万円。鹿解体処理施設建設費の一部に充てる。ネクストゴール(250万円)達成で食肉加工品の開発のための設備の導入、サードゴール(300万円)達成でシェアキッチンを設置することにした。
支援者へのリターンは、サンクスレターや鹿肉の発送、オープン後の施設見学への招待などを用意。こうして2018年10月17日、CFがスタートした。
cafeはまぐり堂を訪れた人たちや亀山さんが教師をしていた時の教え子、CFサイトを通じて活動を知ったというジビエに興味ある人や料理人などからも、支援と応援メッセージが寄せられた。そして、締め切り3日前の11月30日に目標額200万円を達成。最終的には140人から218万円の支援を得ることができた。

多くの支援者とコミュニケーションを図れることが魅力。

CFの魅力について、「われわれの取り組みに寄り添っていただいた支援者の顔が見えること。さまざまな形でのリターンを通じてお礼ができること」と話す亀山さん。中でも支援者のもとに亀山さんが出向いて講演を行う10万円のリターンに2人の応募があったことは、とてもうれしかったと振り返る。「CFへの挑戦は、単なる資金調達のためだけでなく、牡鹿半島の鹿害の社会的課題や廃棄処分されている鹿の問題をオープンにしたいという目的もあ
りました」。講演会のオファーは、支援していただいた方たちと直接顔を合わせ、牡鹿の実情を伝えることができる絶好の機会にもなる。
また、CFに取り組む際の注意点に「細やかなリターンの準備」をあげた。「支援者に失礼があってはならないと考えます。自身の社会的な信頼にも関わることなので、初めてCFを行おうと考えるなら、熟考して時間をかけて準備することも必要だと思っています」。
解体処理施設の建設計画は、蛤浜の震災復旧工事の遅延の影響もあって滞っていたが、2月末に隣接する女川町の産業用地の手配にこぎつけ再び動き出した。素晴らしい自然に触れることができる故郷が、多くの人でにぎわうことが亀山さんの願いだ。
「鹿の駆除費用には税金が投入されています。これからさらに被害が拡大する懸念は否めません。
故郷の未来のために、税金に頼らないシステムを構築し、この地域が生き残るための独自のビジネスモデルをつくっていかなければと思っています」。