成功事例インタビュー

2019年9月12日

走る楽しさを伝えたい。 クラウドファンディングで 笑顔いっぱいの故郷に。

福島県中通りの中央部に広がる郡山盆地に、東北3番目の人口を有する中核市・郡山市がある。福島県はスポーツが盛んな地域で、多くのアスリートを輩出してきた。陸上競技のコーチとして、また現役アスリートとして活躍する遠藤清也さんは、東日本大震災後、故郷の郡山市で「走ることの楽しさ」を多くの人に伝えたいと、ランニングイベント開催の資金調達に向けクラウドファンディング(以下、CF)にエントリーする。

「山猿選手権」が伝えたいのは走る楽しさと、帰る故郷のある有難さ。

「山猿選手権」代表の遠藤清也さんは、CFに参加した経緯を次のように話す。「福島県は『駅伝王国ふくしま』と言われるほど、駅伝が盛んな地域です。走りたい人が心から楽しめる場の1つとして、ランニングイベント『山猿選手権』を開催する費用、100万円の調達が目的でした」。
もともとは遠藤さんの呼びかけで、3年ほど前から旧交を温め合ってきたランニングの練習会。高校時代の友人や後輩など、郡山を離れ進学や就職で首都圏に暮らす仲間が、年2回の帰省時に集まる同窓会のようなものだった。そこには、箱根駅伝区間記録保持者や日本高校記録保持者など、トップクラスのアスリートも参加する。「現役も、現役を離れた人もいます。高いレベルの練習ができる上、同郷の仲間と共に走るのは、ほかでは得られない楽しさがありました」。
思いがけなかったのは、回を重ねるごとに増えるギャラリーだった。陸上競技に興味を持つ中学生や高校生、その保護者や市民ランナーもいる。
そこでひらめいたのは「選手権スタイル」での開催だった。自ら走りたい人もギャラリーも、だれもが気軽に参加できる楽しいランニングイベントである。遠藤さんらは、まずは行動してみようと考え、イベントを統括するために「山猿選手権実行委員会」を立ち上げた。2018年1月の初回選手権開催に続き、同年8月には第2回目を企画。初回は参加者・ギャラリーを含め80人程度、2回目では100名を超え、着実にファンを増やしていった。
またイベント終了後には次回開催への問い合わせが続々と入り、実行委員会は3回目開催へ向け動き出した。

本格的ランニングイベントを提供したい。開催資金の調達は、CFの公開で。

参加者の声を耳にしたメンバーは、第3回開催は、地域に根付くイベントにしたいという思いが強くなる。一方、遠藤さんは、震災後の福島の子どもたちの肥満率が全国的にも大変高いことを知り、「子どもたちを招待し、故郷を走る楽しさを共有したい」と考えた。しかし、競技場や計測器のレンタル料など、積算すれば 100万ほどの経費になる。これまで仲間で持ち寄っていた資金では、はるかに及ばない額だった。
そこで、遠藤さんは、以前から支援者としてCFに参加していた経験から、資金調達の手段として
CF公開を考える。そんな折、偶然にも復興庁支援事業によるCF説明会が、郡山市内で開催されることや国の助成制度があることを知った。
実行委員会がCF支援者に準備したリターンは、「選手直筆サイン色紙」「オリジナルステッカー」「オリジナル Tシャツ」「直筆メッセージ入り当日の写真」。ファンにはたまらない人気アスリートによる「パーソナルコーチング」など、委員会メンバーで工夫した品々である。支援者に提示する「目的」は、「たくさんの人に楽しんでもらえる場、走る楽しさを伝えるランニングイベント」の定着と拡大、子どもたちの無料招待などと明確だったため、種々の書類作成や公開までのプロセスで苦労はなかった。
また、イベントメーキングの形も固まっていた。実は遠藤さんには、以前から手本にしたい催しがあった。関東で開催されている市民ランナーの手づくりイベント「♯OTT♯大人のタイムトライアル」である。「イベントの前半は、皆で走る楽しさを前面に出した流れに。後半に進むにつれ、本気モードの走りを伝えるという内容です。トップランナーの走りを参加者に肌で感じてもらえる、そんな雰囲気をイメージし、山猿独自のイベントを提供したい
と思いました」と話す。

得るものが多かったCF公開は故郷・郡山へ、恩返しの第一歩。

ページのデザインなどに思考錯誤したが、専門家のアドバイスを受け楽しく制作したというCFページ。自ら更新してきた「山猿選手権」のWebページとの住み分けも考えた公開だった。「CFでは『山猿選手権』が目指す、考えや思いを描き、Webページには仲間の楽しそうな様子やイベント報告などを掲載しました」。2018年12月24日は、
公開から19日目にして見事に目標額を達成。それから間もなく、年が明けた2019年1月5日、3回目となった山猿選手権は、郡山総合運動場開成山陸上競技場で、150名を超える参加者を集め成功を収めた。
CF公開で得られたものは運営資金の100万円だけでなく、二次的な成果も大きかったと話す遠藤さん。「スポーツ以外の分野で、さまざまな方々と関わりが持てました。機会があってパネラーとして登壇する経験もいただき、僕たちの思いや『山猿選手権』の存在を多くの方々に知っていただいたことも成果でした」。CF支援者の思いも重ねてイベントを継続することで、世代の異なる後輩との連携もでき、山猿選手権を将来につなげる人的要員
の確保もできた。
「僕の場合は、CFのリスクは皆無で、メリットが多かったと考えます。むしろ、失敗しても得るものは大きいと判断し公開に踏み切ました」。また、参加メンバーは、支援者の動向やイベント開催での交流を通し、故郷の多くの方々から応援してもらう有難さを実感したという。「『山猿選手権』を継続し、将来的には全国のランナーに郡山市を訪れてもらいたい。被災地福島の交流人口を増やし、故郷の郡山市へ恩返しがしたいと思っています」という遠藤さん。加えて、CFエントリーについて、「もし迷われているのであれば、僕は行動してみた方がいいと思います。失敗しても何かが残ります。熱い思いさえあれば成功も夢ではないと考えます」。